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粒子線治療の原理


・重粒子線とは

 重粒子とは、電子より重い粒子(原子核)の総称です。重粒子線とは原子核のビームをいいます。重粒子線には原子核の種類(H、He、C、Ne、Si、Arなど)だけ種類があり、もっとも軽い水素原子核(すなわち陽子)のビームを陽子線と呼んでいます。

 加速器で粒子を加速するためには、原子から電子を取り払い、電気を帯びさせる(イオン状態にする)必要があります。炭素、ネオンなどの荷電粒子を光速近くまで加速したものが重粒子線です。

 粒子の大きさをモデルで比較すると次のようになります。


(注)重粒子線とは、電子より重い粒子のビームの総称で、陽子線を含んで使用されていたこともありましたが、このホームページでは炭素イオン線を指します。また、陽子線および炭素イオン線を包含する場合は粒子線と称しています。


・粒子線の特性

 ガンマ線、エックス線、電子線などは体外から照射すると、体の表面近くで 線量 が最大となり、それ以降は深さとともに次第に減少していきます。このことから、一方向からの照射では、深いところにあるがん病巣に十分なダメージを与えようとすると、がん病巣より浅いところにある正常細胞により大きなダメージを与えることになります。これを避けるために、多方向から弱い線量をがん病巣に当て、周りの正常な細胞には少なく当たるようにし、がん病巣の線量が高くなるように照射する技術(多門照射法、強度変調放射線治療など)が開発されています。

 一方、粒子線はそのエネルギーによって人体内に入る深さ(飛程と呼びます)が定まり、その飛程の終端近くでエネルギーを急激に放出して止まります。この現象はブラッグ・ピークと呼ばれています。加速器を用いて粒子のエネルギーを調節し、腫瘍の部分で粒子が止まるようにすれば、この現象を利用して体表面から照射の道筋にある正常な細胞にあまり影響を与えず、腫瘍細胞だけを殺傷することができます。

 放射線の種類と体内における線量分布(放射線の強さの変化)を下のグラフに示します。



・粒子線と通常の放射線の違い

 治療では粒子線は、がん病巣と重要臓器の位置関係によって水平方向、垂直方向のいずれからも照射できるようになっています。

 がん病巣を2方向から照射する例を下の図を使って説明します。  エックス線やガンマ線などの放射線をがん病巣に照射すると、右側の図のように、体の表面近くは線量が大きく、体の中を進むにつれて弱くなっていきますが、放射線はがん病巣で止まらずに、病巣を突き抜けてさらに後ろに進みます。

 一方、粒子線は与えられたエネルギーで体内を進む深さが決まります。したがって左側の図のように、がん病巣の深さに相当するエネルギーで照射すると粒子線は病巣の終端部ピタリと止まり、がん病巣の後ろには進みません。実際の治療では、「ボーラス」と呼ばれるフィルターを使って、病巣の形に合わせた照射を行います。



 陽子線、重粒子線、エックス線療法の特性を比較してみます。陽子線は、細胞致死効果は従来のガンマ線、エックス線などとほぼ同じですが、線量の集中性がこれらより優れています。重粒子線は止まる位置のずれや横方向の広がり(散乱)が陽子線よりも少なく、細胞致死効果(生物学的効果)は陽子線の約3倍と高く、神経組織や重要臓器を避けながら精密な治療が可能です。また、酸素濃度の低い腫瘍にも効果が高いという特徴があります。

重粒子線陽子線エックス線
(1)線量の集中性    ×
(2)線量分布境界の鋭さ ×
(3)生物学的効果
(4)低酸素がんに対する効果 ××
(5)放射線抵抗性がんに対する効果××
(6)分割照射回数が少ない ×


・粒子線のピークを拡大する

 実際のがん病巣は深さ方向に厚みをもっていますので、粒子線を病巣に一様に照射するためにはブラッグ・ピークを病巣の厚み方向に一様に広げる操作が必要になります。この一様に広げられたビームの形をSOBP(Spread-Out Bragg Peak:拡大ブラッグ・ピーク)と呼んでいます。



・加速器について

 粒子の加速には、重粒子線についてはシンクロトロンと呼ばれるリング型の加速器が使われます。陽子線についてはシンクロトロンとサイクロトロンの2種類の加速器のいずれも使用することができます。

 重粒子線治療装置について説明します。炭素イオンはイオン源と呼ばれる装置で作られ、ライナックと呼ばれる直線加速器で加速され、リング状の加速器に送られます。ビーム粒子は、円形軌道を周回するたびに、加速空洞を通過し、その度に加速されエネルギーが増加していきます。それに合わせて磁場も増加させ、同じ円軌道を周回するように調整します。そして、指定した治療に必要なエネルギーに達した時、円軌道から離脱させ、外部へビームとして取り出します。



・ビームをがんの形状に合わせて整形

 加速器から出た粒子線は細いビームであり、がん病巣に一様に当るようにするためにビームを太くする必要があります。このために、まずビームを散乱体に通すことによって少し太くし、続いて水平、垂直に配置してある電磁石によって円柱状に広げます。また、ビームのピークに幅を持たせるのはリッジフィルタを通すことによって行われます。

 さらに、照射するビームをがんの形状に合わせて整形します。照射野(照射する範囲)をがんの形状に合わせるためには、コリメータ(真ちゅう板をがんの形状に合わせてくり貫いたものまたは複数の板で任意の形状の穴を作れる多葉コリメータ)を使用します。ビームはがん病巣の形状に合わせて開けられたコリメータの穴のみ通過し、それ以外の範囲に粒子線が当らないようになります。

 奥行き方向の到達距離の調節はボーラス(ポリエチレンの板をがんの形状に合わせて削りとったもの)を通して行います。このように粒子線治療ではビームをがんの形状に合わせて整形し、がんの形状とおりに焼き尽くすことができます。


がんの形状に合わせてビームを整形するさまざまな装置


ボーラスとコリメータとがんの形状との関係を示します。


患者さんを乗せた治療台とボーラスとコリメータの位置関係を示します。